フジタがカトリックの洗礼を受けたランス大聖堂
パリから北東へ約130キロ、TGV(高速列車)でわずか45分ほどで訪れることができる都市ランス。
人口約18万人の中規模都市ながら歴史的建築や文化施設が集中しており、観光都市としても人気があるランス市は、別名「戴冠の街(Cité des Sacres)」と呼ばれ、中世以来、フランス王の戴冠式が行われた歴史を誇ります。
2021GR_282_000_013-Vue du clocher-©AD Ville de Reims
ランスの歴史は5世紀末、フランク族の王クローヴィス1世が聖レミから洗礼を受けたことに始まります。この洗礼によりクローヴィスはキリスト教徒となり、フランク王国の統一を進めました。その後、ランス大聖堂は中世以降、フランス王の戴冠式の場として用いられ、13世紀から19世紀にかけて約25人の王がここで王冠を授かっています。戴冠式は国王の権威と宗教的正統性を象徴し、ランスはフランス王権の中心舞台として栄えました。
第一次世界大戦中、ランス市街や大聖堂は激しい爆撃にさらされましたが、戦後の修復によって歴史的建築の荘厳さと街並みの美しさは現在も受け継がれています。
Cathédrale_GRAND REIMS PANO 360_1-4©Ville de Reims
Cathédrale PASCUAL-Cathédrale
街の中心にそびえるランス大聖堂(ノートルダム大聖堂)は、13世紀に建設されたゴシック建築の傑作です。高さ38mの正面ファサードには精緻な彫刻が並び、華麗なステンドグラスが印象的です。20世紀には、シャガールによるステンドグラスも加えられ、長い年月をかけた建設の歴史と現代芸術の息吹が共存しています。建設には約200年の歳月を要し、フランス北部ゴシック建築の完成形とも称されます。
2023GR_115_002_044-Cathédrale de Reims-©AD GrandReims
1959年、藤田嗣治は妻・君代とともにこの荘厳な大聖堂でカトリックの洗礼を受け、「レオナール・フジタ」として新たな人生を歩み始めました。洗礼は、シャンパーニュ地方の名門メゾン・マムやテタンジェなど、地元関係者の協力を得て執り行われ、15のテレビ局や各国の新聞記者が見守る中で行われました。大聖堂の内部に足を踏み入れると、神聖で厳かな空気が漂い、藤田が感じた祈りの静謐さを今に伝えています。
ランス大聖堂で洗礼を受けるフジタ夫妻(提供:Sipa press)。
洗礼の日、藤田は大聖堂に一枚の絵を献納しました。それが本展にて展示される作品《聖母子》です。優しく穏やかな表情をした聖母子と、愛らしい四人の天使たちが描かれた本作は、初めて「レオナール・フジタ」と署名され、名実ともに新たな創作の歩みを始める象徴となりました。
作品画像:《聖母子》1959年 インク・墨(淡彩)、金箔、油彩・キャンバス ランス大聖堂蔵 ランス美術館寄託 Vierge à l’Enfant (1959), Encre, lavis d'encre, feuille d'or et huile sur toile Don de Léonard Foujita à la Cathédrale de Reims en 1959 Dépôt de l’association diocésaine de Reims Reims, Musée des Beaux-Arts / photo : Corentin Le Goff